うさぎでもわかる微分方程式 Part12 対角化を用いた連立微分方程式の解き方と指数行列(演習編)

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こんにちは、ももやまです。

今回は前回の記事で説明した

  • 対角化を用いた連立微分方程式の解き方
  • 指数行列を用いた連立微分方程式の解き方
  • 指数行列の求め方

について、実際に演習を行っていきたいと思います。

期末試験、院試対策などにぜひご覧ください!

※ 説明編(演習編ではない)の記事はこちらとなります。より詳しい説明はこちらをご覧ください

www.momoyama-usagi.com

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1.対角化のみを用いた連立微分方程式の解法

まずは、解き方の確認からしておきましょう。

まずは、指数行列を使わず、対角化だけで連立微分方程式を求める方法を確認しましょう。

(※ 係数行列 \( A \) が対角化できない場合は使えません。)

※ 対角化がよくわからない人は下の記事で復習しましょう。

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Step1. 連立微分方程式\[
\left\{ \begin{array}{l} \frac{dx}{dt} = ax + by \\ \frac{dy}{dt} = cx + dy \end{array}\right.
\]を行列を用いて\[
\frac{d}{dt} \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} a & b \\ c &d \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) \]\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]と表現する。

Step2. 行列 \( A \) の固有値 \( k_1 \), \( k_2 \)、固有値に対応する固有ベクトル \( \vec{p}_1 \), \( \vec{p}_2 \) を求めてから対角化を行い、\[
P^{-1} AP = D \]\[
A = P D P^{-1}
\]となるような正則行列 \( P \)、対角行列 \( D \) \[
P = \left( \begin{array}{ccc} \vec{p}_1 & \vec{p}_2 \end{array} \right) =  \left( \begin{array}{ccc} \textcolor{red}{p_{11}} & \textcolor{blue}{p_{12}} \\ \textcolor{green}{p_{21}} & \textcolor{orange}{p_{22}} \end{array} \right)
\]\[ D = \left( \begin{array}{ccc} \textcolor{magenta}{k_1} & 0 \\0 & \textcolor{purple}{k_2} \end{array} \right)
\]を求める。

Step3. 連立微分方程式を\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x} \]\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = P D P^{-1} \vec{x} \]\[
P^{-1} \frac{d \vec{x} }{dt} = P^{^1} P D P^{-1} \vec{x} \]\[
\frac{d}{dt} P^{-1} \vec{x} =  D P^{-1} \vec{x} \]\[
\]と変形し、\( \vec{y} = P^{-1} \vec{x} \) とおき、さらに\[
\frac{d}{dt} \vec{y} =  D \vec{y} \]\[
\frac{d}{dt} \left( \begin{array}{ccc} X \\ Y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} k_1 & 0 \\ 0 & k_2 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} X \\ Y \end{array} \right)
\]とする。

f:id:momoyama1192:20200420092300g:plain

Step4. \( D \) は対角行列なので、任意定数 \( C_1 \), \( C_2 \) を用いて\[
\frac{dX}{dt} = k_1 X \ \ \Rightarrow \ \ X = C_1 e^{k_1 t} \]\[
\frac{dY}{dt} = k_2 Y \ \ \Rightarrow \ \  Y = C_2 e^{k_2 t}
\]が成立する。

Step5. \( \vec{y} = P^{-1} \vec{x} \) なので、\( \vec{x} = P \vec{y} \) となる。よって、\[\begin{align*}
\vec{x} & = P \vec{y}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} \vec{p}_1 & \vec{p}_2 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} X  \\ Y  \end{array} \right)
\\ & =  \left( \begin{array}{ccc} \textcolor{red}{p_{11}} & \textcolor{blue}{p_{12}} \\ \textcolor{green}{p_{21}} & \textcolor{orange}{p_{22}} \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} C_1 e^{k_1 t}  \\ C_2 e^{k_2 t} \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} \textcolor{red}{p_{11}} C_1 e^{\textcolor{magenta}{k_1} t} + \textcolor{blue}{p_{12}} C_2 e^{\textcolor{purple}{k_2} t} \\ \textcolor{green}{p_{21}} C_1 e^{\textcolor{magenta}{k_1} t} + \textcolor{orange}{p_{22}} C_2 e^{\textcolor{purple}{k_2} t} \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right)
\end{align*}\]

の5ステップで、一般解\[
\left\{ \begin{array}{l} x = \textcolor{red}{p_{11}} C_1 e^{\textcolor{magenta}{k_1} t} + \textcolor{blue}{p_{12}} C_2 e^{\textcolor{purple}{k_2} t} \\ y = \textcolor{green}{p_{21}} C_1 e^{\textcolor{magenta}{k_1} t} + \textcolor{orange}{p_{22}} C_2 e^{\textcolor{purple}{k_2} t} \end{array}\right.
\]を求めることができる。

対角化を用いた方法

では、実際に解いてみましょう。

練習1 対角化だけを用いた微分方程式の解法

連立微分方程式\[
\left\{ \begin{array}{l} \frac{dx}{dt} = 8x+2y \\ \frac{dy}{dt} = -6x+y \end{array}\right.
\]は、行列を用いて\[
\frac{d}{dt} \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc}  8 & 2 \\ -6 & 1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) \]\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]と表すことができる。(1), (2)の問いに答えなさい。

※ 指数行列を使わずに解いてみましょう。

(1) 行列\[
A = \left( \begin{array}{ccc} 8 & 2 \\ -6 & 1 \end{array} \right)
\]の固有値、固有ベクトルを求め、対角化しなさい。

(2) (1)を用いて連立微分方程式の一般解を求めなさい。

解答1

(1)

固有値を \( k \) とすると、\[\begin{align*}
|A - kE| & = \left| \begin{array}{ccc} 8-k & 2 \\ -6 & 1-k \end{array} \right|
\\ & = (k-1)(k-8) + 12
\\ & = k^2 - 9k + 20
\\ & = (k-4)(k-5)
\\ & = 0
\end{align*}\]と変形できるので、固有値は 4, 5 となる。

(検算:固有値の総和 = 対角成分の総和 = 9)

つぎに、対応する固有値ごとに固有ベクトルを求める。

(i) 固有値が4のときの固有ベクトル \( \vec{p}_1 \)

行列 \( A - 4E \) の変形を行うと、\[\begin{align*}
A - 4E & = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 2 \\ -6 & -3 \end{array} \right) \\ & \to \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 0 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]となる。方程式\[
2x + y = 0
\]の解は任意定数 \( k \) を用いて\[
\left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) = k \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ -2 \end{array} \right)
\]となるので、固有ベクトル \( \vec{p}_1 \) は\[
\vec{p}_1 = \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ -2 \end{array} \right)
\]となる。

(ii) 固有値が5のときの固有ベクトル \( \vec{p}_2 \)

行列 \( A - 5E \) の変形を行うと、\[\begin{align*}
A - 5E & = \left( \begin{array}{ccc} 3 & 2 \\ -6 & -4 \end{array} \right) \\ & \to \left( \begin{array}{ccc} 3 & 2 \\ 0 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]となる。方程式\[
3x + 2y = 0
\]の解は任意定数 \( k \) を用いて\[
\left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) = k \left( \begin{array}{ccc} 2 \\ -3 \end{array} \right)
\]となるので、固有ベクトル \( \vec{p}_2 \) は\[
\vec{p}_2 = \left( \begin{array}{ccc} 2 \\ -3 \end{array} \right)
\]となる。

よって、行列 \( P \) を\[
P = \left( \begin{array}{ccc} \vec{p}_1 & \vec{p}_2 \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 2 \\ -2 & -3 \end{array} \right)
\]とすることで、\[
P^{-1} A P = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 0 \\ 0 & 5 \end{array} \right) = D
\]と対角化できる。

検算:\[
AP = PD = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 10 \\ -8 & -15 \end{array} \right)
\]

(2)

\( P^{-1} AP = D \)、つまり \( A = PDP^{-1} \) より、\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = P D P^{-1} \vec{x} \]と変形できる。

さらに、\( P^{-1} \) を左辺に掛けることにより、\[
P^{-1} \frac{d \vec{x} }{dt} = P^{-1} P D P^{-1} \vec{x}
\]となる。

ここで、\( P^{-1} \) は定数なので、\[
\frac{d}{dt} P^{-1} \vec{x} =  D P^{-1} \vec{x}
\]と変形でき、さらに \( \vec{y} = P^{-1} \vec{x} \) とおくことで\[
\frac{d}{dt} \vec{y} =  D \vec{y} \]\[
\frac{d}{dt} \left( \begin{array}{ccc} X \\ Y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 0 \\ 0 & 5 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} X \\ Y \end{array} \right)
\]と変形できる。

よって、任意定数 \( C_1 \), \( C_2 \) を用いて\[
\frac{dX}{dt} = k_1 X \ \ \Rightarrow \ \ X = C_1 e^{4 t}  \]\[
\frac{dY}{dt} = k_2 Y \ \ \Rightarrow \ \  Y = C_2 e^{5 t}
\]と変形できる。

また、\( \vec{y} = P^{-1} \vec{x} \)、つまり \( \vec{x} = P \vec{y} \) なので、\[\begin{align*}
\vec{x} & = P \vec{y}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 2 \\ -2 & -3 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} X  \\ Y  \end{array} \right)
\\ & =  \left( \begin{array}{ccc} 1 & 2 \\ -2 & -3 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} C_1 e^{4 t}  \\ C_2 e^{5 t}  \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} C_1 e^{4 t} + 2C_2 e^{5 t} \\ -2C_1 e^{4 t} - 3C_2 e^{5 t} \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right)
\end{align*}\]

となるので、一般解を\[
\left\{ \begin{array}{l} x = C_1 e^{4 t} + 2C_2 e^{5 t} \\ y = -2C_1 e^{4 t} - 3C_2 e^{5 t}\end{array}\right.
\]を求めることができる。

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2.指数行列を用いた微分方程式の解法

次に、指数行列 \( e^{tA} \) に用いて微分方程式を解く方法を確認していきたいと思います。

対角化ができないような行列でも指数行列を使うことで一般解を求められるのが大きな特徴です。

連立微分方程式\[
\left\{ \begin{array}{l} \frac{dx}{dt} = ax + by \\ \frac{dy}{dt} = cx + dy \end{array}\right.
\]を行列を用いて\[
\frac{d}{dt} \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} a & b \\ c &d \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) \]\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]と表現したときの係数行列 \( A \) の固有値よって解き方が3パターンに分かれます。

パターン1. 対角化ができるとき

行列 \( A \) の固有値 \( k_1 \), \( k_2 \)、固有値に対応する固有ベクトル \( \vec{p}_1 \), \( \vec{p}_2 \) を求めてから対角化を行い、\[
P^{-1} AP = D \]\[
A = P D P^{-1}
\]となるような正則行列 \( P \)、対角行列 \( D \) \[
P = \left( \begin{array}{ccc} \vec{p}_1 & \vec{p}_2 \end{array} \right)
\]\[ D = \left( \begin{array}{ccc} k_1 & 0 \\ 0 & k_2 \end{array} \right)
\]を求める。

パターン2. 係数行列が対角化できないとき

行列 \( A \) の固有値 \( k_1 \) に対応する固有ベクトルは、\( \vec{p}_1 \) しか出てこないので\[
(A-k_1) \vec{p}_2 = \vec{p}_1
\]を満たす \( \vec{p}_2 \) を求めることにより、\[
P^{-1} AP = J \]\[
A = P J P^{-1}
\]となるような正則行列 \( P \)、ジョルダン標準形 \( J \) \[
P = \left( \begin{array}{ccc} \vec{p}_1 & \vec{p}_2 \end{array} \right)
\]\[ J = \left( \begin{array}{ccc} k_1 & 1 \\ 0 & k_1 \end{array} \right)
\]を求める。

パターン3. 固有値が共役な複素数となる場合

固有値 \( k_1 = a + bi \) に対応する固有ベクトル \( \vec{p} \) を求める。

(\( \vec{p}_2 \) は考えなくてOK)

つぎに、固有ベクトル \( \vec{p} \) を\[
\vec{p} = \vec{u} + i \vec{v}
\]と実部 \( \vec{u} \) と虚部 \( \vec{v} \) と分けることにより、行列\[
P = \left( \begin{array}{ccc} \vec{u} & \vec{v} \end{array} \right) , \ \ \
X = \left( \begin{array}{ccc} a & b \\ -b & a \end{array} \right)
\]を用いて、\[
P^{-1} AP = X \]\[
A = P X P^{-1}
\]と変形する。

指数行列を用いた方法

つぎに、連立方程式\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]の一般解は、任意定数を縦に並べたベクトル \( \vec{c} \) を用いて\[
\vec{x} = e^{tA} \vec{c}
\]で求めることができるので、\( e^{tA} \) を求める。

また、\( A = P D P^{-1} \) より、\[\begin{align*}
\vec{x} & = e^{tA} \vec{c} \\ & = e^{t P DP^{-1}} \vec{c}
\\ & = P e^{tD} P^{-1} \vec{c}
\end{align*}\]が成立する。

(\( D \) の部分はパターン2であれば \( J \)、パターン3であれば \( X \) となる。

あとは、指数行列の基本計算公式から \( e^{tD} \), \( e^{tJ} \), \( e^{tX} \) を計算してから新たな任意定数\[
\vec{C} = P^{-1} \vec{c} = \left( \begin{array}{ccc} C_1 \\ C_2 \end{array} \right)
\]としてから、\[\begin{align*}
\vec{x} & = e^{tA} \vec{c}
\\ & = P e^{tD} P^{-1} \vec{c}
\\ & = P e^{tD} \vec{C}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right)
\end{align*}\]を計算することで一般解を求めることができます。

パターン1のときに使う公式

\[
D = \left( \begin{array}{ccc} k_1 & 0 \\ 0 & k_2 \end{array} \right) \ \ \Rightarrow \ \ e^{tD} =   \left( \begin{array}{ccc} e^{k_1} & 0 \\ 0 & e^{k_2} \end{array} \right)
\]

※ \( D \) が \( n \) 次正方対角行列の場合\[
D = \left( \begin{array}{ccc}
k_1 & 0 & \ldots & 0 \\
0 & k_2 & \ldots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \ldots & k_k
\end{array} \right) \ \ \Rightarrow \ \ e^{tA} = \left( \begin{array}{ccc}
e^{k_1 t} & 0 & \ldots & 0 \\
0 & e^{k_2 t} & \ldots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \ldots & e^{k_n t}
\end{array} \right)
\]が成り立ちます。

(対角行列は成分 \( k \) を \( e^{tk} \) に書き換えるだけで成立)

 

パターン2のときに使う公式

\[
J = \left( \begin{array}{ccc} k_1 & 1 \\ 0 & k_1 \end{array} \right) \ \ \Rightarrow \ \ e^{tJ} = e^{k_1} \left( \begin{array}{ccc} 1 & t \\ 0 & 1 \end{array} \right)
\]

パターン3のときの使う公式

\[
X = \left( \begin{array}{ccc} a & b \\ -b & a \end{array} \right) \ \ \Rightarrow \ \ e^{tX} = e^{at} \left( \begin{array}{ccc} \cos bt & \sin bt \\ \sin bt & \cos bt \end{array} \right)
\]

指数行列の基本計算公式

ただし、

  • 初期条件を考慮した解を求めたい場合
  • \( e^{tA} \) を求めたい

場合は正則行列 \( P \) の逆行列 \( P^{-1} \) を求める必要があります。

初期条件を考慮するのであれば、任意定数ベクトル \( \vec{c} \) に\[
\vec{c} = \left( \begin{array}{ccc} x(0) \\ y(0) \end{array} \right)
\]代入し、\[
\vec{x} = P e^{tD} P^{-1} \vec{c}
\]を計算することで一般解を求めます。

また、\( e^{tA} \) を求めるのであれば\[
e^{tA} =  P e^{tD} P^{-1}
\]を素直に計算する必要があります。

練習2 指数行列と連立微分方程式 その1

連立微分方程式\[
\left\{ \begin{array}{l} \frac{dx_1}{dt} = 4x_1 + x_2 + x_3 \\ \frac{dx_2}{dt} = 2x_1 + 4x_2 + 2 x_3 \\ \frac{dx_3}{dt} = -2x_1 - x_2 + x_3 \end{array}\right.
\]は、行列を用いて\[
\frac{d}{dt} \left( \begin{array}{ccc} x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 1 & 1 \\ 2 & 4 & 2 \\ -2 & -1 & 1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{array} \right) \]\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]と表すことができる。(1)~(3) の問いに答えなさい。

(1) 行列\[
A = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 1 & 1 \\ 2 & 4 & 2 \\ -2 & -1 & 1 \end{array} \right)
\]の固有値、固有ベクトルを求め、対角化しなさい。

(2) (1)を用いて連立微分方程式の一般解を求めなさい。

(3) 行列 \( A \) の指数行列 \( e^{tA} \) を求めなさい。

解答2

固有値を \( k \) とすると、\[\begin{align*}
|A - kE| & = \left| \begin{array}{ccc} 4-t & 1 & 1 \\ 2 & 4-t & 2 \\ -2 & -1 & 1-t \end{array} \right|
\\ & = \left| \begin{array}{ccc} 2-t & 0 & 2-t \\ 2 & 4-t & 2 \\ -2 & -1 & 1-t \end{array} \right|
\\ & = (2-t) \left| \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 1 \\ 2 & 4-t & 2 \\ -2 & -1 & 1-t \end{array} \right|
\\ & = (2-t) \left| \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 4-t & 0 \\ 0 & -1 & 3-t \end{array} \right|
\\ & = (2-t) \left| \begin{array}{ccc}  4-t & 0 \\ -1 & 3-t \end{array} \right|
\\ & = (2-t)(3-t)(4-t)
\\ & = 0
\end{align*}\]と変形できるので、固有値は 2, 3, 4 となる。

(検算:固有値の総和 = 対角成分の総和 = 9)

※3×3行列の固有値は、むやみにサラスの公式を使わず、行基本変形を用いて解くことをおすすめします。なお、固有値の求め方のコツについてはこちらの記事に書いていますのでぜひご覧ください。

つぎに、対応する固有値ごとに固有ベクトルを求める。

(i) 固有値が2のときの固有ベクトル \( \vec{p}_1 \)

行列 \( A - 2E \) の変形を行うと、\[\begin{align*}
A - 2E & = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 & 1 \\ 2 & 2 & 2 \\ -2 & -1 & -1 \end{array} \right)
\\ &\to \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\\ &\to \left( \begin{array}{ccc} 2 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]となる。方程式\[
\left\{ \begin{array}{l} 2x = 0 \\ y+z = 0 \end{array}\right.
\]の解は任意定数 \( k \) を用いて\[
\left( \begin{array}{ccc} x \\ y \\ z \end{array} \right) = k \left( \begin{array}{ccc} 0 \\ 1 \\ -1 \end{array} \right)
\]となるので、固有ベクトル \( \vec{p}_1 \) は\[
\vec{p}_1 = \left( \begin{array}{ccc} 0 \\ 1 \\ -1 \end{array} \right)
\]となる。

(ii) 固有値が3のときの固有ベクトル \( \vec{p}_2 \)

行列 \( A - 3E \) の変形を行うと、\[\begin{align*}
A - 3E & = \left( \begin{array}{ccc} 1& 1 & 1 \\ 2 & 1 & 2 \\ -2 & -1 & -2 \end{array} \right)
\\ &\to \left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 & 1 \\ 0 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\\ &\to \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]となる。方程式\[
\left\{ \begin{array}{l} x+z = 0 \\ y = 0 \end{array}\right.
\]の解は任意定数 \( k \) を用いて\[
\left( \begin{array}{ccc} x \\ y \\ z \end{array} \right) = k \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ 0 \\ -1 \end{array} \right)
\]となるので、固有ベクトル \( \vec{p}_2 \) は\[
\vec{p}_2 = \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ 0 \\ -1 \end{array} \right)
\]となる。

(iii) 固有値が4のときの固有ベクトル \( \vec{p}_3 \)

行列 \( A - 4E \) の変形を行うと、\[\begin{align*}
A - 4E & = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 1 \\ 2 & 0 & 2 \\ -2 & -1 & -3 \end{array} \right)
\\ &\to \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & -1 & -1 \end{array} \right)
\\ &\to \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]となる。方程式\[
\left\{ \begin{array}{l} x+z = 0 \\ y+z = 0 \end{array}\right.
\]の解は任意定数 \( k \) を用いて\[
\left( \begin{array}{ccc} x \\ y \\ z \end{array} \right) = k \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ 1 \\ -1 \end{array} \right)
\]となるので、固有ベクトル \( \vec{p}_3 \) は\[
\vec{p}_3 = \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ 1 \\ -1 \end{array} \right)
\]となる。

よって、行列 \( P \) を\[
P = \left( \begin{array}{ccc} \vec{p}_1 & \vec{p}_2 & \vec{p}_3 \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 1 \\ 1 & 0 & 1 \\ -1 & -1 & -1 \end{array} \right)
\]とすることで、\[
P^{-1} A P = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 0 \\ 0 & 5 \end{array} \right) = D
\]と対角化できる。

検算:\[
AP = PD = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 3 & 4 \\ 2 & 0 & 4 \\ -2 & -3 & -4 \end{array} \right)
\]

(2)

連立方程式\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]の一般解は、任意定数を縦に並べたベクトル \( \vec{c} \) を用いて\[
\vec{x} = e^{tA} \vec{c}
\]で求めることができる。

また、対角化の式\[
P^{-1} AP = D
\]より\[
A = P D P^{-1}
\]が成立するので、\[\begin{align*}
\vec{x} & = e^{tA} \vec{c} \\ & = e^{t P DP^{-1}} \vec{c}
\\ & = P e^{tD} P^{-1} \vec{c}
\end{align*}\]が成立する。(法則3の変形)

また、指数行列の基本公式より、\[
e^{tD} = \left( \begin{array}{ccc} e^{2t} & 0 & 0 \\ 0 & e^{3t} & 0 \\ 0 & 0 & e^{4t} \end{array} \right)
\]となる。

ここで、改めて任意定数を\[
\vec{C} = P^{-1} \vec{c} = \left( \begin{array}{ccc} C_1 \\ C_2 \\ C_3 \end{array} \right)
\]とすることで、\[\begin{align*}
\vec{x} & = P e^{tD} P^{-1} \vec{c}
\\ & = P e^{tD} \vec{C}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 1 \\ 1 & 0 & 1 \\ -1 & -1 & -1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} e^{2t} & 0 & 0 \\ 0 & e^{3t} & 0 \\ 0 & e^{4t} & 0 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} C_1 \\ C_2 \\ C_3 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 0 & e^{3t} & e^{4t} \\ e^{2t} & 0 & e^{4t} \\ - e^{2t} & - e^{3t} & - e^{4t} \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} C_1 \\ C_2 \\ C_3 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 1 \\ 1 & 0 & 1 \\ -1 & -1 & -1 \end{array} \right)  \left( \begin{array}{ccc} C_2 e^{3t} + C_3 e^{4t} \\ C_1 e^{2t} + C_3 e^{4t} \\ - C_1 e^{2t} - C_2 e^{3t} - C_3 e^{4t} \end{array} \right)
\end{align*} \]となるので、一般解を\[
\left\{ \begin{array}{l} x_1 = C_2 e^{3t} + C_3 e^{4t} \\ x_2 = C_1 e^{2t} + C_3 e^{4t} \\ x_3 = - C_1 e^{2t} - C_2 e^{3t} - C_3 e^{4t} \end{array}\right.
\]と求めることができる。

(本当は \( P e^{tD} \vec{C} = P (e^{tD} \vec{C}) \) と計算するほうが早いが、(3)で \( e^{tA} \) を計算するので、\( (P e^{tD}) \vec{C} \) で計算しています。)

(3)

\( P \) の逆行列 \( P^{-1} \) は\[
P^{-1} = \left( \begin{array}{ccc} -1 & 0 & -1 \\ 0 & -1 & -1 \\ 1 & 1 & 1 \end{array} \right)
\]となる。

よって、\[\begin{align*}
e^{tA} & = P e^{tD} P^{-1}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 1 \\ 1 & 0 & 1 \\ -1 & -1 & -1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} e^{2t} & 0 & 0 \\ 0 & e^{3t} & 0 \\ 0 & e^{4t} & 0 \end{array} \right)  \left( \begin{array}{ccc} -1 & 0 & -1 \\ 0 & -1 & -1 \\ 1 & 1 & 1 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 0 & e^{3t} & e^{4t} \\ e^{2t} & 0 & e^{4t} \\ - e^{2t} & - e^{3t} & - e^{4t} \end{array} \right)  \left( \begin{array}{ccc} -1 & 0 & -1 \\ 0 & -1 & -1 \\ 1 & 1 & 1 \end{array} \right)
\\ & =  \left( \begin{array}{ccc} e^{4t} & -e^{3t}+e^{4t} & - e^{3t} + e^{4t} \\ - e^{2t} + e^{4t} &  e^{4t} & -e^{2t} + e^{4t} \\ e^{2t} - e^{4t} & e^{3t} - e^{4t} & e^{2t} + e^{3t} - e^{4t} \end{array} \right)
\end{align*}\]と計算できる。

練習3 指数行列と連立微分方程式 その2

連立微分方程式\[
\left\{ \begin{array}{l} \frac{dx}{dt} = 5x - 2y \\ \frac{dy}{dt} = 2x + y \end{array}\right.
\]は、行列を用いて\[
\frac{d}{dt} \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 5 & -2 \\ 2 & 1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) \]\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]と表すことができる。(1), (2)の問いに答えなさい。

(1) 行列\[
A = \left( \begin{array}{ccc} 5 & -2 \\ 2 & 1 \end{array} \right)
\]を正則行列 \( P \) を用いて、\( P^{-1} AP \) をジョルダン標準形にしなさい。

(2) 連立微分方程式の一般解を求めなさい。

(3) 行列 \( A \) の指数行列 \( e^{tA} \) を求めなさい。

解答3

(1)

固有値を \( k \) とすると、\[\begin{align*}
|A - kE| & = \left| \begin{array}{ccc} 5-k & -2 \\ 2 & 1-k \end{array} \right|
\\ & =(k-1)(k-5) + 4
\\ & = k^2 - 6k + 9
\\ & = (k-3)^2 = 0
\\ & = 0
\end{align*}\]と変形できるので、固有値は3(2重解)となる。

(検算:固有値の総和 = 対角成分の総和 = 6)

つぎに、対応する固有値ごとに固有ベクトルを求める。

(i) 固有値が3のときの固有ベクトル \( \vec{p}_1 \)

行列 \( A - 3E \) の変形を行うと、\[\begin{align*}
A - 4E & = \left( \begin{array}{ccc} 2& -2 \\ 2 & -2 \end{array} \right) \\ & \to \left( \begin{array}{ccc} 1 & -1 \\ 0 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]となる。方程式\[
x - y = 0
\]の解は任意定数 \( k \) を用いて\[
\left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) = k \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ 1 \end{array} \right)
\]となるので、\( k = 2 \) とすることで固有ベクトル \( \vec{p}_1 \) は\[
\vec{p}_1 = \left( \begin{array}{ccc} 2 \\ 2 \end{array} \right)
\]となる。

(\( \vec{p}_2 \) の成分に分数が出ないように \( k = 2 \) のときを固有ベクトルとしています。)

固有ベクトルが1本ないので対角化ができない。

そこで、\[
(A-3E) \vec{p}_2 = \vec{p}_1
\]を満たすような行列を考える。\[\begin{align*}
A - 3E & = \left( \begin{array}{cc|c} 2 & -2 & 2 \\ 2 & -2 & 2 \end{array} \right) \\ & \to \left( \begin{array}{cc|c} 1 & -1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]となる。方程式\[
x - y = 1
\]の解の1つに\[
\left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ 0 \end{array} \right)
\]があるので、ベクトル \( \vec{p}_2 \) は\[
\vec{p}_2 = \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ 0 \end{array} \right)
\]と求まる。

よって、\[
\left\{ \begin{array}{l} (A - 3E) \vec{p_1} = \vec{0} \\ A \vec{p_1} = 3 \vec{p_1} \end{array}\right.  \ \ \
\left\{ \begin{array}{l} (A - 3E) \vec{p_2} = \vec{p_1} \\ A \vec{p_2} = \vec{p_1} + 3 \vec{p_2} \end{array}\right.
\]が成立するので、\[ P = \left( \vec{p_1}, \vec{p_2} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1\\ 2 & 0 \end{array} \right)\]とすると、\[ \begin{align*}
AP & = A \left( \vec{p_1}, \vec{p_2} \right) \\ & = \left( 3 \vec{p_1}, \vec{p_1} + 3 \vec{p_2} \right)  \\ & =   \left( \vec{p_1}, \vec{p_2} \right) \left( \begin{array}{ccc} 3 & 1 \\ 0 & 3 \end{array} \right) \\ & = P \left( \begin{array}{ccc} 3 & 1 \\ 0 & 3 \end{array} \right)
\end{align*} \]となるので、\[
P^{-1} A P = \left( \begin{array}{ccc} 3 & 1 \\ 0 & 3 \end{array} \right) = J
\]とジョルダン標準形にすることができます。

※ ジョルダン標準形ってなんだっけという人は下の記事で復習しましょう。

www.momoyama-usagi.com

[検算]\[
AP = PJ = \left( \begin{array}{ccc} 6 & 5 \\ 6 & 2 \end{array} \right)
\]

(2)

連立方程式\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]の一般解は、任意定数を縦に並べたベクトル \( \vec{c} \) を用いて\[
\vec{x} = e^{tA} \vec{c}
\]で求めることができる。

また、ジョルダン標準形の式\[
P^{-1} AP = J
\]を変形すると、\[
A = P J P^{-1}
\]となるので、\[\begin{align*}
\vec{x} & = e^{tA} \vec{c} \\ & = e^{t P JP^{-1}} \vec{c}
\\ & = P e^{tJ} P^{-1} \vec{c}
\end{align*}\]が成立する。(法則3の変形)

また、公式1より\[
e^{tJ} = e^{3t} \left( \begin{array}{ccc} 1 & t \\ 0 & 1 \end{array} \right)
\]となる。

ここで、改めて任意定数を\[
\vec{c'} = P^{-1} \vec{c} = \left( \begin{array}{ccc} C_1 \\ C_2 \end{array} \right)
\]とすることで、\[\begin{align*}
\vec{x} & = P e^{tD} P^{-1} \vec{c}
\\ & = P e^{tD} \vec{c'}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 2 & 0 \end{array} \right) \cdot e^{3t} \left( \begin{array}{ccc} 1 & t \\ 0 & 1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} C_1 \\ C_2 \end{array} \right)
\\ & = e^{3t} \left( \begin{array}{ccc} 2 & 2t+1 \\ 2 & 2t \end{array} \right)  \left( \begin{array}{ccc} C_1 \\ C_2 \end{array} \right)
\\ & = e^{3t} \left( \begin{array}{ccc} 2C_1 + (2t+1) C_2    \\ 2 C_1 + 2t C_2 \end{array} \right)
\end{align*} \]となるので、一般解を\[
\left\{ \begin{array}{l} x = 2 C_1 e^{3t} +  (2t+1) e^{3t} C_2 t   \\ y = 2 C_1 e^{3t} + 2t C_2 e^{4t} \end{array}\right.
\]と求めることができる。

(3)

\( P \) の逆行列 \( P^{-1} \) は\[
P^{-1} =  \frac{1}{2} \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 2 & -2 \end{array} \right)
\]となる。

よって、\[\begin{align*}
e^{tA} & = P e^{tD} P^{-1}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 \\ 2 & 1 \end{array} \right) \cdot e^{3t} \left( \begin{array}{ccc} 1 & t \\ 0 & 1 \end{array} \right) \cdot \frac{1}{2} \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 2 & -2 \end{array} \right)
\\ & = \frac{1}{2} e^{3t} \left( \begin{array}{ccc} 2 & 2t+1 \\ 2 & 2t \end{array} \right)   \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 2 & -2 \end{array} \right)
\\ & = \frac{1}{2} e^{3t} \left( \begin{array}{ccc} 4t+2 & -4t \\ 4t & 2-4t \end{array} \right)
\\ & = e^{3t} \left( \begin{array}{ccc} 2t+1 & -2t \\ 2t & 1-2t \end{array} \right)
\end{align*}\]と計算できる。

練習4 指数行列と連立微分方程式 その3

つぎの連立微分方程式\[
\left\{ \begin{array}{l} \frac{dx}{dt} = x - 5y \\ \frac{dy}{dt} = x - 3y \end{array}\right.
\]の解を初期条件 \( x(0) = 3 \), \( y(0) = 1 \) に基づいて解きなさい。

[2019年度 九州大学大学院システム情報科学府 問題2]

[追加問題]

さらに、行列 \( A \) を\[
A = \left( \begin{array}{ccc} 1 & -5 \\ 1 & -3 \end{array} \right)
\]としたときの指数行列 \( e^A \) も求めなさい。

解答4

連立微分方程式を行列を用いて表すと、\[
\frac{d}{dt} \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 1 & -5 \\ 1 & -3 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} x \\ y \end{array} \right) \]\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]と表すことができる。

固有値を \( k \) とすると、\[\begin{align*}
|A - kE| & = \left| \begin{array}{ccc} 1-k & -5 \\ 1 & -3-k \end{array} \right|
\\ & =(k-1)(k+3) + 5
\\ & = k^2 + 2k + 2
\\ & = \frac{-2 \pm \sqrt{4-8}}{2}
\\ & = -1 \pm i
\end{align*}\]と変形できるので、固有値は -1±i となる。

(検算:固有値の総和 = 対角成分の総和 = -2)

つぎに、固有値 -1 + i に対する固有ベクトルを求める。

固有値が \( 1 + i \) のとき、\[
\left\{ \begin{array}{l} x-5y = (-1+i) x \\ x-3y = (-1+i) y \end{array}\right.
\]との関係式が成立するので、1式目を変形して\[
(-2+i) x = -5y \]\[
y = \frac{1}{5} (2-i)
\]とする。ここで、\( x = 2+i \) とすると、\[
y = - \frac{1}{5} (2-i)(2+i) = 1
\]となるので、解の1つが\[
y = \left( \begin{array}{ccc} 2+i \\ 1 \end{array} \right)
\]となる。

よって固有ベクトル \( \vec{p} \) は\[
\vec{p} = \left( \begin{array}{ccc} 2+i \\ 1 \end{array} \right)
\]と求まる。

ここで固有ベクトル \( \vec{p} \) を\[\begin{align*}
\vec{p} & = \left( \begin{array}{ccc} 2 \\ 1 \end{array} \right) + i \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ 0 \end{array} \right)
\\ & = \vec{u} + i \vec{v}
\end{align*}\]のように実部 \( \vec{u} \) と虚部 \( \vec{v} \) に分ける。

左辺は\[\begin{align*}
A \vec{p}  & = A ( \vec{u} + i \vec{v} )
\\ & = A \vec{u} + i A \vec{v}
\end{align*}\]となる。

また、右辺は\[\begin{align*}
(-1+i) \vec{p} & = (-1+i) ( \vec{u} + i \vec{v} )
\\ & =  - \vec{u} - i \vec{v} + i \vec{u}  - \vec{v}
\\ & = ( - \vec{u} -  \vec{v} ) + i (- \vec{v} +  \vec{u} )
\end{align*}\]となるので、\[
A \vec{p} = (-1+i) \vec{p} \]\[
A \vec{u} + i A \vec{v} =  (- \vec{u} -  \vec{v} ) + i ( \vec{u} - \vec{v} )
\]が成り立ちます。

よって、\[
\left\{ \begin{array}{l} A \vec{u} = - \vec{u} - \vec{v} \\ A \vec{v} = \vec{u} - \vec{v}  \end{array}\right.
\]の形に変形できるので、行列を用いて\[
A \left( \begin{array}{ccc} \vec{u}  & \vec{v} \end{array} \right)  = \left( \begin{array}{ccc} \vec{u}  & \vec{v} \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} -1 & 1 \\ -1 & -1 \end{array} \right)
\]と表すことができます。

(試験でははここの導出は必要に応じて省略するのもあり)

ここで、\[
P = \left( \begin{array}{ccc} \vec{u}  & \vec{v} \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 1 & 0 \end{array} \right)
\\ X =  \left( \begin{array}{ccc} -1 & 1 \\ -1 & -1 \end{array} \right)
\]とおくことで\[
AP = PX \]\[
A P \textcolor{red}{P^{-1}} = P X \textcolor{red}{P^{-1}} \]\[
A = P X P^{-1}
\]の形に変形することができます。

[検算]\[
AP = PX = \left( \begin{array}{ccc} -3 & 1 \\ -1 & 1 \end{array} \right)
\]

ここで、連立方程式\[
\frac{d \vec{x} }{dt} = A \vec{x}
\]の一般解は、初期値を縦に並べたベクトル\[
\vec{c} = \left( \begin{array}{ccc} x(0) \\ y(0) \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 3 \\ 1 \end{array} \right)
\]を用いて\[
\vec{x} = e^{tA} \vec{c}
\]で求めることができる。

また、\[
A = P X P^{-1}
\]なので、\[\begin{align*}
\vec{x} & = e^{tA} \vec{c} \\ & = e^{t P X P^{-1} } \vec{c}
\\ & = P e^{tX} P^{-1} \vec{c}
\end{align*}\]が成立する。(法則3の変形)

また、公式1より\[
e^{tX} = e^{-t} \left( \begin{array}{ccc} \cos t & \sin t \\ - \sin t & \cos t \end{array} \right)
\]となる。

ここで、行列 \( P \) の逆行列は\[
P^{-1} = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 1 & -2 \end{array} \right)
\]で計算できる。

よって、解を\[\begin{align*}
\vec{x} & = P e^{tX} P^{-1} \vec{c}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 1 & 0 \end{array} \right) \cdot e^{-t} \left( \begin{array}{ccc} \cos t & \sin t \\ - \sin t & \cos t \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 1 & -2 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 3 \\ 1 \end{array} \right)
\\ & = e^{-t} \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 1 & 0 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} \cos t & \sin t \\ - \sin t & \cos t \end{array} \right)  \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ 1 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 1 & 0 \end{array} \right)  \left( \begin{array}{ccc} \sin t + \cos t \\ - \sin t + \cos t \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} \sin t + 3 \cos t \\ \sin t + \cos t \end{array} \right)
\end{align*} \]となるので、解を\[
\left\{ \begin{array}{l} x = e^{-t} (\sin t + 3 \cos t)  \\ y = e^{-t} ( \sin t + \cos t ) \end{array}\right.
\]と求めることができる。

[おまけ]

指数行列 \( e^{tA} \) は、\[\begin{align*}
e^{tA} & = P e^{tX} P^{-1}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 1 & 0 \end{array} \right) \cdot e^{-t} \left( \begin{array}{ccc} \cos t & \sin t \\ - \sin t & \cos t \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 1 & -2 \end{array} \right)
\\ & = e^{-t} \left( \begin{array}{ccc} - \sin t + 2 \cos t & 2 \sin t + \cos t \\ \cos t & \sin t \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 1 & -2 \end{array} \right)
\\ & = e^{-t} \left( \begin{array}{ccc} 2 \sin t + \cos t & - 5 \sin t  \\ \sin t & -2 \sin t + \cos t \end{array} \right)
\end{align*}\]と求められる。

※ 右側から行列を計算した場合と左側から行列を計算した場合で計算量が結構違うのがお分かりになるかと思います。

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3.さいごに

今回は、

  • 対角化を用いた連立微分方程式の解き方
  • 指数行列を用いた連立微分方程式の求め方
  • 指数行列の求め方

の3つについての解き方の確認、演習問題について説明しました。

次回からはいよいよ微分演算子についての説明に入っていきたいと思います。

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