【数検1級対策】うさぎでもわかる線形代数 応用編第2羽 対称行列と交代行列への分解

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こんにちは、ももやまです。

今回は、行列を対称行列と交代行列(反対称行列・歪対称行列)の和に分解する方法について理屈も含めて説明していきましょう。

※ この記事内では行列 \( A \) の成分はすべて実数とします。

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1. 対称行列

(1) 対称行列とは

行列を転置させても元の行列と変わらない行列を対称行列と呼びます。

\[
A = \left( \begin{array}{ccc} \textcolor{red}{3} & \textcolor{blue}{-1} & \textcolor{green}{-3} \\ \textcolor{red}{-1} & \textcolor{blue}{4} & \textcolor{green}{0} \\ \textcolor{red}{-3} & \textcolor{blue}{0} & \textcolor{green}{1} \end{array} \right) , \ \ \ \
A^{\top} =
\left( \begin{array}{ccc} \textcolor{red}{3} & \textcolor{red}{-1} & \textcolor{red}{-3} \\ \textcolor{blue}{-1} & \textcolor{blue}{4} & \textcolor{blue}{0} \\ \textcolor{green}{-3} & \textcolor{green}{0} & \textcolor{green}{1} \end{array} \right)
\]

数式で書くと、\( A^{\top} = A \) ですね。

(2) 任意の行列から対称行列の作成

どんな行列 \( A \) であっても、\( S = A + A^{\top} \) とすることで、\( S \) を対称行列にすることができます

(i) 具体例を1つ見てみよう

例えば、次の行列 \( A \) に対して、\( S = A + A^{\top} \) を計算してみましょう。\[
A = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 3 & 4 \\ -2 & 5 & 2 \\ 0 & -5 & 1 \end{array} \right)
\]すると、下のように \( S \) を計算できますね。\[\begin{align*}
S & = A + A^{\top}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 3 & 4 \\ -2 & 5 & 2 \\ 0 & -5 & 1 \end{array} \right) + \left( \begin{array}{ccc} 4 & -2 & 0 \\ 3 & 5 & -5 \\ 4 & 2 & 1 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 8 & 1 & 4 \\ 1 & 10 & -3 \\ 4 & -3 & 2 \end{array} \right)
\end{align*}\]

確かに \( S^{\top} = S \) となり、対称行列であることが確認できました。

(ii) 仕組みの解説

ここで、なぜ \( S = A + A^{\top} \) で \( S \) を対称行列にできるのかを見ていきましょう。

ここで、\( S \) が対称行列となるためには \( S^{\top} = S \) が示せればOKですね。

[右辺の変形]\[\begin{align*}
(\mathrm{左辺}) & = S^{\top}
\\ & = (A + A^{\top})^{\top}
\\ & = A^{\top} + (A^{\top})^{\top}
\\ & = A^{\top} + A
\\ & = A + A^{\top}
\\ & = (\mathrm{右辺})
\end{align*}\]となるため、(左辺) = (右辺) となり、確かに \( S \) が対称行列になることがわかりますね。

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2. 交代行列(反対称行列・歪対称行列)

行列を転置させると、各成分の正負が入れ替わる行列を交代行列(反対称行列・歪対称行列)と呼びます。

\[
A = \left( \begin{array}{ccc} \textcolor{red}{0} & \textcolor{blue}{3} & \textcolor{green}{-4} \\ \textcolor{red}{-3} & \textcolor{blue}{0} & \textcolor{green}{-2} \\ \textcolor{red}{4} & \textcolor{blue}{2} & \textcolor{green}{0} \end{array} \right) , \ \ \ \
A^{\top} =
\left( \begin{array}{ccc} \textcolor{red}{0} & \textcolor{red}{-3} & \textcolor{red}{4} \\ \textcolor{blue}{3} & \textcolor{blue}{0} & \textcolor{blue}{2} \\ \textcolor{green}{-4} & \textcolor{green}{-2} & \textcolor{green}{0} \end{array} \right)
\]

数式で書くと、\( A^{\top} = -A \) ですね。

(2) 任意の行列から対称行列の作成

どんな行列 \( A \) であっても、\( T = A - A^{\top} \) とすることで、\( T \) を交代行列にすることができます

(i) 具体例を1つ見てみよう

先ほどと同じ \( A \) に対して、\( T = A - A^{\top} \) を計算してみましょう。\[
A = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 3 & 4 \\ -2 & 5 & 2 \\ 0 & -5 & 1 \end{array} \right)
\]すると、下のように \( T \) を計算できますね。\[\begin{align*}
T & = A - A^{\top}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 3 & 4 \\ -2 & 5 & 2 \\ 0 & -5 & 1 \end{array} \right) + \left( \begin{array}{ccc} 4 & -2 & 0 \\ 3 & 5 & -5 \\ 4 & 2 & 1 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 5 & 4 \\ -5 & 0 & 7 \\ -4 & -7 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]

(ii) 仕組みの解説

先ほどと同じように、\( T= A - A^{\top} \) で \( T \) を交代行列にできるのかを見ていきましょう。

ここで、\( T \) が交代行列となるためには \( T^{\top} = -T \) が示せればOKですね。

[右辺の変形]\[\begin{align*}
(\mathrm{左辺}) & = T^{\top}
\\ & = (A - A^{\top})^{\top}
\\ & = A^{\top} - (A^{\top})^{\top}
\\ & = A^{\top} - A
\\ & = -(A - A^{\top})
\\ & = -T
\\ & = (\mathrm{右辺})
\end{align*}\]となるため、(左辺) = (右辺) となり、確かに \( T \) が交代行列になることがわかりますね。

(iii) 交代行列の対角成分は…?

結論から言うと、交代行列の対角成分はすべて0になります。

理由を説明していきましょう。元の正方行列 \( A \) とその転置行列 \( A^{\top} \) の対角成分は必ず等しくなりますね[1]実際に転置してみるとわかりやすいと思います。理屈としては、ある行列の各 \( i \) 行 \( j \) 列の成分を \( j \) 行 \( i \) … Continue reading

また、交代行列とは元の行列 \( A \) の各成分の正負が入れ替えた行列、つまり \( A^{\top} = -A \) が成立する行列でしたね。

ここで、「元の行列の各成分の正負を入れ替えて」も対角成分を等しくさせるためには、正負を入れ替えても(-1倍しても)値が変わらない数、つまり0でないといけませんね。

対称行列と交代行列

行列 \( A \) とその転置行列 \( A^{\top} \) に対し、

  • \( A^{\top} = A \) を満たす行列を対称行列
  • \( A^{\top} = -A \) を満たす行列を交代行列(歪対称行列・反対称行列)

という。

※ 交代行列の対角成分は必ず0

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3. 行列を対称行列・交代行列に分解しよう

いよいよ本題である「行列を対称行列交代行列の2つに分解する」方法についてみていきましょう。

まず、行列 \( A \) に対して \( A + A^{\top} \) は必ず対称行列\( A - A^{\top} \) は必ず交代行列になるのでしたね。

ここで、\[
(\textcolor{red}{A + A^{\top}}) +(\textcolor{blue}{A - A^{\top}}) = 2A
\]とすることで、\( 2A \) を対称行列と交代行列に分けることができますね。

あとは(1つ)上の式を2で割ることで、行列 \( A \) を「対称行列 \( S \)交代行列 \( T \) の和」に分解する式が完成します。\[\begin{align*}
A & = \textcolor{red}{S} + \textcolor{blue}{T}
\\ & = \textcolor{red}{ \frac{1}{2} (A + A^{\top}) } + \textcolor{blue}{ \frac{1}{2} (A - A^{\top}) }
\end{align*}\]

対称行列Sと交代行列Tへの分解

どのような行列 \( A \) も、以下の計算をすることで対称行列 \( S \) と交代行列 \( T \) の和(つまり \( A = S + T \) )に分解することができる。\[
S = \frac{1}{2} ( A + A^{\top} ) , \ \ \ T = \frac{1}{2} ( A - A^{\top} )
\]

実際に対称行列 \( S \) と交代行列 \( T \) の分解を例題で確認しましょう。

例題

つぎの行列 \( A \) を対称行列 \( S \) と交代行列 \( T \) の和に分解しなさい。\[
A = \left( \begin{array}{ccc} 1 & -1 & 0 \\ 1 & 3 & -4 \\ -4 & 2 & 4 \end{array} \right)
\]

[解答]

まずは転置行列を計算します。\[
A^{\top} = \left( \begin{array}{ccc} 1 &1 & -4 \\ -1 & 3 & 2 \\ 0 & -4 & 4 \end{array} \right)
\]

あとは、分解公式に当てはめるのみ。\[\begin{align*}
S & = \frac{1}{2} ( A + A^{\top} )
\\ & = \frac{1}{2} \left\{ \left( \begin{array}{ccc} 1 & -1 & 0 \\ 1 & 3 & -4 \\ -4 & 2 & 4 \end{array} \right) + \left( \begin{array}{ccc} 1 &1 & -4 \\ -1 & 3 & 2 \\ 0 & -4 & 4 \end{array} \right) \right\}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & -2 \\ 0 & 3 & -1 \\ -2 & -1 & 4 \end{array} \right)
\end{align*}\]

\[\begin{align*}
T & = \frac{1}{2} ( A - A^{\top} )
\\ & = \frac{1}{2} \left\{ \left( \begin{array}{ccc} 1 & -1 & 0 \\ 1 & 3 & -4 \\ -4 & 2 & 4 \end{array} \right) - \left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 & -4 \\ -1 & 3 & 2 \\ 0 & -4 & 4 \end{array} \right) \right\}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 0 & -1 & 2 \\ 1 & 0 & -3 \\ -2 & 3 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]

となる。

[検算ポイント1] \( S \) が本当に交代行列になっているか確認!
[検算ポイント2] \( T \) が本当に交代行列になっているか確認!

よって、行列 \( A \) は次のように対称行列 \( S \) と交代行列 \( T \) の和に分解できる。\[\begin{align*}
A & = \textcolor{red}{S} + \textcolor{blue}{T}
\\ & = \textcolor{red}{ \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & -2 \\ 0 & 3 & -1 \\ -2 & -1 & 4 \end{array} \right) } + \textcolor{blue}{ \left( \begin{array}{ccc} 0 & -1 & 2 \\ 1 & 0 & -3 \\ -2 & 3 & 0 \end{array} \right) }
\end{align*}\] [検算ポイント3] \( A = S + T \) にきちんとなっているか確認!

検算確認

計算後は、必ず次の1〜3を確かめるための検算をしましょう!

  • \( S \) を計算後に \( S \) が本当に対称行列になっている?
  • \( T \) を計算後に \( T \) が本当に交代行列になっている?
  • \( A = S + T \) になっている?

4. 練習問題

では、4次正方行列で実際に計算練習をしてみましょう。

練習

つぎの行列 \( A \) を対称行列 \( S \) と交代行列 \( T \) の和に分解しなさい。\[
A = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 4 & 2 & -4 \\ 2 & -2 & 9 & -1 \\ -4 & -1 & 7 & 4 \\ 8 & -9 & 2 & 0 \end{array} \right)
\]

[解答]

まずは転置行列 \( A^{\top} \) の計算から。\[
A^{\top} = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 2 & -4 & 8 \\ 4 & -2 & -1 & -9 \\ 2 & 9 & 7 & 2 \\ -4 & -1 & 4 & 0 \end{array} \right)
\]

対称行列 \( S \) の計算。\[\begin{align*}
S & = \frac{1}{2} ( A + A^{\top} )
\\ & = \frac{1}{2} \left\{ \left( \begin{array}{ccc} 4 & 4 & 2 & -4 \\ 2 & -2 & 9 & -1 \\ -4 & -1 & 7 & 4 \\ 8 & -9 & 2 & 0 \end{array} \right) +
\left( \begin{array}{ccc} 4 & 2 & -4 & 8 \\ 4 & -2 & -1 & -9 \\ 2 & 9 & 7 & 2 \\ -4 & -1 & 4 & 0 \end{array} \right) \right\}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 3 & -1 & 2 \\ 3 & -2 & 4 & -5 \\ -1 & 4 & 7 & 3 \\ 2 & -5 & 3 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]※ 計算後に \( S \) が対称行列になっているか必ず確認!

交代行列 \( T \) の計算。\[\begin{align*}
T & = \frac{1}{2} ( A - A^{\top} )
\\ & = \frac{1}{2} \left\{ \left( \begin{array}{ccc} 4 & 4 & 2 & -4 \\ 2 & -2 & 9 & -1 \\ -4 & -1 & 7 & 4 \\ 8 & -9 & 2 & 0 \end{array} \right) -
\left( \begin{array}{ccc} 4 & 2 & -4 & 8 \\ 4 & -2 & -1 & -9 \\ 2 & 9 & 7 & 2 \\ -4 & -1 & 4 & 0 \end{array} \right) \right\}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 3 & -6 \\ -1 & 0 & 5 & 4 \\ -3 & -5 & 0 & 1 \\ 6 & -4 & -1 & 0 \end{array} \right)
\end{align*}\]※ 計算後に \( T \) が交代行列になっているか必ず確認!

よって、行列 \( A \) は次のように対称行列 \( S \) と交代行列 \( T \) の和に分解できる。\[\begin{align*}
A & = \textcolor{red}{S} + \textcolor{blue}{T}
\\ & = \textcolor{red}{ \left( \begin{array}{ccc} 4 & 3 & -1 & 2 \\ 3 & -2 & 4 & -5 \\ -1 & 4 & 7 & 3 \\ 2 & -5 & 3 & 0 \end{array} \right) } + \textcolor{blue}{ \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 3 & -6 \\ -1 & 0 & 5 & 4 \\ -3 & -5 & 0 & 1 \\ 6 & -4 & -1 & 0 \end{array} \right) }
\end{align*}\]※ 本当に \( A = S + T \) になっているか確認!

5. さいごに

今回は、数検1級に出てくる「行列 \( A \) を対称行列 \( S \) と交代行列 \( T \) の和に分解」する問題の解き方やその仕組みについてでした!

計算方法だけでなく、なぜこの計算式で分解できるかの理由まで分かっておくと、公式を頭に入れやすくなるかと思います!

注釈

注釈
1 実際に転置してみるとわかりやすいと思います。理屈としては、ある行列の各 \( i \) 行 \( j \) 列の成分を \( j \) 行 \( i \) 列におきかえるのが転置行列でしたね。ここで対角成分の場合、\( i = j \) が必ず成り立ちますよね。

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