うさぎでもわかる線形代数 第23羽 ジョルダン標準形を用いた行列のn乗の求め方

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こんにちは、ももやまです。

今回はジョルダン標準形を用いた行列の \( n \) 乗の求め方についてまとめていきたいと思います。

 

 

前回の記事はこちら↓

www.momoyama-usagi.com

ジョルダン標準形がよくわかっていない人はこちらの記事で復習してください。

また、今回の例題の行列は第22羽の例題の行列と全く同じです。

 

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1.はじめに

こちらの記事で対角行列であれば行列の \( n \) 乗が簡単に求められることは前説明しましたね。

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ジョルダン標準形の場合も対角行列のように行列の \( n \) が比較的簡単に求められるのですが、ちょっとした工夫が必要です。

(対角化を用いた行列の \( n \) 乗が理解できていないとこちらの記事の理解は少しむずかしいかもしれません。なので上の記事で対角化を用いた行列の \( n \) 乗の求め方を復習することをおすすめします)

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2.2次正方行列のジョルダン標準形のn乗

2次正方行列のジョルダン標準形は2重解の固有値 \( t \) を用いて\[
J = \left( \begin{array}{ccc} t & \color{orange}{1} \\ 0  & t \end{array} \right) \]\]と求められますね。

ここで、行列を\[
J = \left( \begin{array}{ccc} t & 0 \\ 0  & t \end{array} \right) +  \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 0  & 0 \end{array} \right) = D + A
\]とします。

すると、2項定理を用いて\[\begin{align*}
J^n & = (D+A)^n
\\ & = {}_n \mathrm{C} _0 D^n A^0 + {}_n \mathrm{C} _1 D^{n-1} A^1 + {}_n \mathrm{C} _2 D^{n-2} A^2 + \cdots +  {}_n \mathrm{C} _n D^{0} A^n
\end{align*} \]と変形できます。

ここで、\[
A^0 = E = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 \\ 1  & 1 \end{array} \right) \\
A^1 = A = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 0  & 0 \end{array} \right) \\
A^2 = AA = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 \\ 0  & 0 \end{array} \right) = O
\]と計算できるので \( n \geqq 2 \) に対し、\( A^n = O \) となることがわかります。

なので、\[\begin{align*}
J^n & = (D+A)^n
\\ & = {}_n \mathrm{C} _0 D^n A^0 + {}_n \mathrm{C} _1 D^{n-1} A^1
\\ & = D^n + n D^{n-1} A
\\ & =  \left( \begin{array}{ccc} t^n & 0 \\ 0  & t^n \end{array} \right)  + n  \left( \begin{array}{ccc} t^{n-1} & 0 \\ 0  & t^{n-1} \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 \\ 0  & 0 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} t^n & 0 \\ 0  & t^n \end{array} \right) + \left( \begin{array}{ccc} 0 & n t^{n-1} \\ 0  & 0 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} t^n & n t^{n-1} \\ 0  & t^n \end{array} \right)
\end{align*} \]と計算できます。

 

 

2次ジョルダン標準形のn乗2次ジョルダン標準形 \( J \) が2重解の固有値 \( t \) を用いて\[
J = \left( \begin{array}{ccc} t & \color{orange}{1} \\ 0  & t \end{array} \right)
\]で表される場合のべき乗 \( J^nは\[
J^n = \left( \begin{array}{ccc} t^n & \color{orange}{n t^{n-1}} \\ 0  & t^n \end{array} \right)
\ \)と求められる。

このようにジョルダン標準形の \( n \) 乗は、対角行列+残りで表し、2項定理で展開することより求めることができます。

2次ジョルダン行列の \( n \) 乗が対角成分が固有値の \( n \) 乗( \( t^n \) )、対角成分の1つ上の要素が1の部分が \( n t^{n-1} \) になることは覚えてしまってもいいでしょう。

 

例題1

行列\[ A =  \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ -1 & 4 \end{array} \right)  \]のべき乗 \( A^n \) を求めなさい。

(前回の第22羽の例題1と同じ行列です。)

解説1

基本的に対角化できる場合の行列のべき乗の求め方と同じです。

ただし、ジョルダン標準形に変わっているので、\( J^n \) を求める部分だけが少し違います。

 

行列 \( A \) は \[
P = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 \\ 1 & 1 \end{array} \right)
\]として、\[
P^{-1} AP  = \left( \begin{array}{ccc} 3 & 1 \\ 0 & 3 \end{array} \right)  = J
\]とジョルダン標準形にできる。

(ジョルダン標準形にするまでの過程はこちらから)

ここで、

f:id:momoyama1192:20190827182654g:plain

変形することができるので、\[
J^n = P^{-1} A^n P
\]が成立する。よって行列 \( A \) は、\[
P J^n P^{-1} = P P^{-1} A^n P P^{-1} = A^n \\
A^n = P J^n P^{-1}
\]と求めることができる。

ここで逆行列 \( P^{-1} \) は\[
P^{-1} = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 \\ -1 & 1 \end{array} \right)
\]と表せる。

また、ジョルダン標準形のべき乗 \( J^n \) は、\[
J^n = \left( \begin{array}{ccc} 3^n & 3^{n-1} n \\ 0 & 3 \end{array} \right)
\]と求められるので、\[\begin{align*}
A^n & = P J^n P^{-1}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 \\ 1 & 1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 3^n & 3^{n-1} n \\ 0 & 3 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 \\ -1 & 1 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 3^n & 3^{n-1} n \\ 3^n & 3^{n-1} n + 3^n \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 \\ -1 & 1 \end{array} \right)

\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 3^n - 3^{n-1} n & 3^{n-1} n \\ - 3^{n-1} n & 3^{n-1} n + 3^n \end{array} \right)
\\ & = 3^{n-1} \left( \begin{array}{ccc} 3-n & n \\ -n & n+3 \end{array} \right)
\end{align*} \]と計算できます。

 [検算:\( n = 1 \) を代入して \( A^1 = A \) となることを確認]

 

ちなみに二項定理ではなく、\( J^2 \), \( J^3 \), \( J^4 \)…… と求めて行き形を推測し、数学的帰納法で証明する方法もあります。

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3.3次正方行列のジョルダン標準形のn乗

3次正方行列のジョルダン標準形の \( n \) 乗も2次と同じように求めることができます。

ですが、2パターンに場合分けが必要です。

(1) 固有値が2重解+1重解 or 3重解かつ固有ベクトルが2本求められる場合

まずはこちらのジョルダン標準形の \( n \) 乗から求めていきましょう。こちらのジョルダン標準形は\[
J = \left( \begin{array}{ccc} t_1 & 0 & 0 \\ 0  & t_2 & \color{orange}{1} \\ 0 & 0 & t_2 \end{array} \right) \\
J = \left( \begin{array}{ccc} t_2 & \color{orange}{1} & 0 \\ 0  & t_2 & 0 \\ 0 & 0 & t_1 \end{array} \right)
\]の形で表されますね(実際に計算でお見せするときは上のほうで試したいと思います)。

(ただし \( t_1 \), \( t_2 \) は固有値。\( t_1 \), \( t_2 \) の値が同じときは3重解で固有ベクトルが2本求められる場合に相当)

 

では先ほどと同じように2項定理を用いてジョルダン標準形 \( J \) の \( n \) 乗を求めていきたいと思います。\[
J = D + A = \left( \begin{array}{ccc} t_1 & 0 & 0 \\ 0  & t_2 & 0 \\ 0 & 0 & t_2 \end{array} \right) + \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 0 \\ 0  & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\]とします。

すると、2項定理を用いて\[\begin{align*}
J^n & = (D+A)^n
\\ & = {}_n \mathrm{C} _0 D^n A^0 + {}_n \mathrm{C} _1 D^{n-1} A^1 + {}_n \mathrm{C} _2 D^{n-2} A^2 + \cdots + + {}_n \mathrm{C} _n D^{0} A^n
\end{align*} \]と変形できます(ここは2次の場合と同様)。

ここで、\[
A^0 = E
A^1 = A = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 0 \\ 0  & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right) \\
A^2 = AA = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 0 \\ 0  & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right) = O
\]と計算できるので \( n \geqq 2 \) に対し、\( A^n = O \) となることがわかります。

なので、\[\begin{align*}
J^n & = (D+A)^n
\\ & = {}_n \mathrm{C} _0 D^n A^0 + {}_n \mathrm{C} _1 D^{n-1} A^1
\\ & = D^n + n D^{n-1} A
\\ & =  \left( \begin{array}{ccc} t_1^n & 0 & 0 \\ 0  & t_2^n & 0 \\ 0 & 0 & t_2^n \end{array} \right)  + n  \left( \begin{array}{ccc} t_1^{n-1} & 0 & 0 \\ 0  & t_2^{n-1} & 0 \\ 0 & 0 & t_2^{n-1} \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 0 \\ 0  & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} t_1^n & 0 & 0 \\ 0  & t_2^n & 0 \\ 0 & 0 & t_2^n \end{array} \right) + \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 0 \\ 0  & 0 & n t_2^{n-1} \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} t_1^n & 0 & 0 \\ 0  & t_2^n & n t_2^{n-1} \\ 0 & 0 & t_2^n\end{array} \right)
\end{align*} \]と計算できます。

(ちなみに下のほうで試すと \( J^n \) は\[
J^n = \left( \begin{array}{ccc} t_2^n & n t_2^{n-1} & 0 \\ 0  & t_2^n & 0  \\ 0 & 0 & t_1^n \end{array} \right)
\]と求められます。)

 

対角成分の上の1が1つのみの場合の3次ジョルダン標準形のn乗3次正方行列のジョルダン標準形 \( J \) が固有値 \( t_1 \), \( t_2 \) を用いて\[
J = \left( \begin{array}{ccc} t_1 & 0 & 0 \\ 0  & t_2 & \color{orange}{1} \\ 0 & 0 & t_2 \end{array} \right) \\
J = \left( \begin{array}{ccc} t_2 & \color{orange}{1} & 0 \\ 0  & t_2 & 0 \\ 0 & 0 & t_1 \end{array} \right)
\]と表される場合のべき乗 \( J^n \) は\[
J^n = \left( \begin{array}{ccc} t_1^n & 0 & 0 \\ 0  & t_2^n & \color{orange}{n t_2^{n-1}} \\ 0 & 0 & t_2^n\end{array} \right) \\
J^n = \left( \begin{array}{ccc} t_2^n & \color{orange}{n t_2^{n-1}} & 0 \\ 0  & t_2^n & 0  \\ 0 & 0 & t_1^n \end{array} \right)
\]と表される。

 

このパターンの \( J \) から \( J^n \) を二項定理ではなく、\( J^2 \), \( J^3 \), \( J^4 \) を求めていくことで \( J^n \) を推測し、帰納法で証明する問題はこちらに用意しているので余裕あればチャレンジしてみてください。

例題2

行列\[ A =  \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & -1 \\ 0 & 2 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \end{array} \right)  \]のべき乗 \( A^n \) を求めなさい。

(前回の第22羽の例題2と同じ行列です。)

解説2

行列 \( A \) は \[
P = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & -1 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & -1 & 1 \end{array} \right)
\]を用いて\[
P^{-1} AP  = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 2 \end{array} \right)  = J
\]とジョルダン標準形にできる。

(ジョルダン標準形にするまでの過程はこちらから)

 

行列 \( A \) のべき乗 \( A^n \) を求めるためには、\[
A^n = P J^n P^{-1}
\]を求めればよい(例題1と同じように変形すればOK)。

 

ここで行列 \( P^{-1} \) の逆行列を求める。

3次正方行列なので掃き出し法で解く。\[ \begin{align*}  &
\left( \begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & -1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & -1 & 1 & 0 & 0 & 1 \end{array} \right) \\ \to \ & 
\left( \begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & -1 & 0 & 0 & -1 & 1 \end{array} \right) \\ \to \ & 
\left( \begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 & 1 & -1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 0 \end{array} \right) 
\end{align*} \] となるので、\[
P^{-1} = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & -1 \\ 0 & 1 & 0 \end{array} \right) 
\]となる。

 

また、ジョルダン標準形のべき乗 \( J^n \) は、\[
J^n = \left( \begin{array}{ccc} 1^n & 1^{n-1} n & 0 \\ 0 & 1^{n} & 0 \\ 0 & 0 & 2^n \end{array} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 1 & n & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 2^n \end{array} \right) 
\]と求められるので、\[\begin{align*}
A^n & = P J^n P^{-1}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & -1 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & -1 & 1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 1 & n & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 2^n  \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & -1 \\ 0 & 1 & 0 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 1 & n & - 2^n \\ 0 & 0 & 2^n \\ 0 & -1 & 2^n \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & -1 \\ 0 & 1 & 0 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 + n - 2^n & -n \\ 0 & 2^n & 0 \\ 0 & -1 + 2^n & 1 \end{array} \right) 
\end{align*} \]と計算できます。

(2) 固有値が3重解かつ固有ベクトルが1本しか求められない場合

つぎに(といっても最後ですが)固有値が3重解かつ固有ベクトルが1本しか求められない場合のジョルダン標準形の \( n \) 乗を求める方法を説明していきましょう。

こちらのジョルダン標準形は3重解の固有値 \( t \) を用いて\[
J = \left( \begin{array}{ccc} t & \color{orange}{1} & 0 \\ 0  & t & \color{orange}{1} \\ 0 & 0 & t \end{array} \right) 
\]の形で表されますね。

 

先ほどと同じように2項定理を用いてジョルダン標準形 \( J \) の \( n \) 乗を求めていきたいと思います。\[
J = D + A = \left( \begin{array}{ccc} t_1 & 0 & 0 \\ 0  & t_2 & 0 \\ 0 & 0 & t_2 \end{array} \right) + \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 0 \\ 0  & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\]とします。

すると、2項定理を用いて\[\begin{align*}
J^n & = (D+A)^n
\\ & = {}_n \mathrm{C} _0 D^n A^0 + {}_n \mathrm{C} _1 D^{n-1} A^1 + {}_n \mathrm{C} _2 D^{n-2} A^2 + \cdots + + {}_n \mathrm{C} _n D^{0} A^n
\end{align*} \]と変形できます。

ここで、\[
A^0 = E
A^1 = A = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 0 \\ 0  & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right) \\
A^2 = AA = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 1 \\ 0  & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right) \\
A^3 = A^2 A = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 0 \\ 0  & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right) = O
\]と計算できるので \( n \geqq 3 \) に対し、\( A^n = O \) となることがわかります。

(先ほどと異なり、\( A^3 \) まで計算しないとゼロ行列 \( O \) にならないので注意)

 

なので、\[\begin{align*}
J^n & = (D+A)^n
\\ & = {}_n \mathrm{C} _0 D^n A^0 + {}_n \mathrm{C} _1 D^{n-1} A^1 + {}_n \mathrm{C} _2 D^{n-2} A^2
\\ & = D^n + n D^{n-1} A + \frac{1}{2} n(n-1) D^{n-2} A^2
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} t^n & 0 & 0 \\ 0  & t^n & 0 \\ 0 & 0 & t^n \end{array} \right) + \left( \begin{array}{ccc} 0 & n t^{n-1} & 0 \\ 0  & 0 & n t^{n-1} \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right) + \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & \frac{1}{2} n(n-1) t^{n-2} \\ 0  & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} t^n & n t^{n-1} & \frac{1}{2} (n^2-n) t^{n-2} \\ 0  & t^n & n t^{n-1} \\ 0 & 0 & t^n \end{array} \right)
\end{align*} \]と計算できます。

 

 

固有値が3重解かつ固有ベクトルが1本の場合の3次ジョルダン標準形のn乗3次正方行列のジョルダン標準形 \( J \) が3重解の固有値 \( t \) を用いて\[
J = \left( \begin{array}{ccc} t & \color{orange}{1} & 0 \\ 0  & t & \color{orange}{1} \\ 0 & 0 & t \end{array} \right) 
\]と表される場合のべき乗 \( J^n \) は\[
J^n = \left( \begin{array}{ccc} t^n & \color{orange}{n t^{n-1}} &\color{green}{\frac{1}{2} (n^2-n) t^{n-2}} \\ 0  & t^n & \color{orange}{n t^{n-1}} \\ 0 & 0 & t^n \end{array} \right)
\]と表される。

 

ではこちらも1問練習してみましょう。

例題3

行列\[ A =  \left( \begin{array}{ccc} 7 & -1 & 1 \\ 8 & 1 & 2 \\ -6 & 1 & 1 \end{array} \right)  \]のべき乗 \( A^n \) を求めなさい。

(前回の第22羽の例題3と同じ行列です。)

 

行列 \( A \) は \[
P = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 2 & 0 & -1 \\ -2 & 1 & -1 \end{array} \right)
\]を用いて\[
P^{-1} AP  = \left( \begin{array}{ccc} 3 & 1 & 0 \\ 0 & 3 & 1 \\ 0 & 0 & 3 \end{array} \right)  = J
\]とジョルダン標準形にできる。

(ジョルダン標準形にするまでの過程はこちらから)

 

行列 \( A \) のべき乗 \( A^n \) を求めるためには、\[
A^n = P J^n P^{-1}
\]を求めればよい(例題1と同じように変形すればOK)。

ここで行列 \( P^{-1} \) の逆行列を求める。

 

3次正方行列なので掃き出し法で解く。\[ \begin{align*}  &
\left( \begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 \\ 2 & 0 & -1 & 0 & 1 & 0 \\ -2 & 1 & -1 & 0 & 0 & 1 \end{array} \right) \\ \to \ & 
\left( \begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 & -2 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & -1 & 2 & 0 & 1 \end{array} \right) \\ \to \ & 
\left( \begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 & -2 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & -1 & 4 & -1 & 1 \end{array} \right) \\ \to \ & 
\left( \begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 4 & -1 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 2 & -1 & 0 \end{array} \right) 
\end{align*} \] となるので、\[
P^{-1} = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 4 & -1 & 1 \\ 2 & -1 & 0 \end{array} \right) 
\]となる。

 

また、ジョルダン標準形のべき乗 \( J^n \) は、\[
J^n = \left( \begin{array}{ccc} 3^n & 3^{n-1} n & \frac{1}{2} \cdot 3^{n-2} (n^2-n) \\ 0 & 3^{n} & 3^{n-1} n \\ 0 & 0 & 3^n \end{array} \right) = \frac{1}{2} \cdot 3^{n-2} \left( \begin{array}{ccc} 18 & 6n & n^2 - n \\ 0 & 18 & 6n \\ 0 & 0 & 18 \end{array} \right) =  
\]と求められるので、\[\begin{align*}
A^n & = P J^n P^{-1}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 2 & 0 & -1 \\ -2 & 1 & -1 \end{array} \right) \cdot \frac{1}{2} \cdot 3^{n-2} \left( \begin{array}{ccc} 18 & 6n & n^2 - n \\ 0 & 18 & 6n \\ 0 & 0 & 18 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 4 & -1 & 1 \\ 2 & -1 & 0 \end{array} \right)
\\ & = \frac{1}{2} \cdot 3^{n-2} \left( \begin{array}{ccc} 18 & 6n & n^2 -n \\ 36 & 12n & 2n^2 - 2n - 18 \\ -36 & 18 - 12n & -2n^2 + 8n-18 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 4 & -1 & 1 \\ 2 & -1 & 0 \end{array} \right)
\\ & = \frac{1}{2} \cdot 3^{n-2}  \left( \begin{array}{ccc} 2n^2 + 22n + 18 & -n^2 - 5n & 6n \\ 4n^2 + 44n & -2n^2-10n+18 & 12n \\ -4n^2 - 32n & 2n^2 + 4n & -12n + 18 \end{array} \right) 
\end{align*} \]と計算できます。

 

4.練習

では1問だけですが練習してみましょう。

3次正方行列の計算はめんどくさいので2次正方行列の問題を持ってきました。

練習

つぎの行列\[
A  = \left( \begin{array}{ccc} 8 & 4 \\ -9 & -4  \end{array} \right)
\]の行列について、次の問いに答えなさい。

(1) 行列 \( A \) の固有値を求めなさい。
(2) 行列 \( A \) が対角化可能かどうかを判定しなさい。
(3) 行列 \( A \) が対角化可能であれば正則な行列 \( P \) を用いて行列 \( A \) を対角化し、 \( P^{-1}AP \) を対角行列にしなさい。対角化できなければ正則な行列 \( P \) を用いて行列 \( A \) のジョルダン標準形を求めなさい。
(4) 行列 \( A \) のべき乗 \( A^n \) を求めなさい。 

(5) (4)の結果を用いて初項 \( a_0 = 1 \), \( b_0 = -2 \) で表される差分方程式(漸化式)

 \[\left\{ \begin{array}{l} a_n = 8 a_{n-1} + \ \ 4 b_{n-1}\\ b_n = -9 a_{n-1} - 4b_{n-1}  \end{array}\right.\]

の \( a_n \), \( b_n \) を求めたい。\[
\vec{x}_n =  \left( \begin{array}{ccc} a_n \\ b_n  \end{array} \right) \\ \vec{x}_n = A \vec{x}_{n-1}
\]とし、\( \vec{x}_n \) を求めることで、\( a_n \), \( b_n \) の特殊解を求めなさい。

 

5.練習問題の答え

(1)

固有値を \( t \) とすると、固有方程式は、\[\begin{align*}
|A-tE| = & \left| \begin{array}{ccc} 8-t & 4 \\ -9 & -4-t \end{array} \right|
\\ = & (t+4)(t-8) + 36 \\ = & t^2 - 4t + 4 \\ = & (t-2)^2 = 0
\end{align*} \]より固有値は2(2重解)となる。

(できればこの時点で対角化難しくねって思ってほしいです……)

 

(2)

固有値が2のときの固有ベクトルは、\[ \begin{align*}
(A-2E) = \ &
\left( \begin{array}{ccc} 6 & 4 \\ -9 & -6  \end{array} \right) \\ \to \ & 
\left( \begin{array}{ccc} 3 & 2 \\ 0 & 0  \end{array} \right)
\end{align*} \]となる。\[
3x + 2y = 0
\]を解くと、任意定数 \( k \) を用いて\[
\left( \begin{array}{ccc} x \\ y  \end{array} \right) = k \left( \begin{array}{ccc} 2 \\ -3 \end{array} \right)
\]と表せるので、固有ベクトルは1本あり、固有ベクトル \( \vec{p_1} \) は、\[
\vec{p_1} = \left( \begin{array}{ccc} 2 \\ -3   \end{array} \right)
\]となる。

 

よって固有ベクトルが行列のサイズ分(2つ)出せないので対角化はできない。

(3)

対角化ができないので、広義固有ベクトルを求めることでジョルダン標準形を求める。\[
(A - 3E) \vec{p_2} = \vec{p_1}
\]を満たすような \( \vec{p_2} \) を求める。

\[ \begin{align*} &
\left( \begin{array}{cc|c} 6 & 4 & 2 \\ -9 & -6 & -3  \end{array} \right) \\ \to \ & 
\left( \begin{array}{cc|c} 3 & 2 & 1  \\ 0 & 0 & 0  \end{array} \right) 
\end{align*} \]となる。\[
3x + 2y = 1
\]の解の1つに\[ \left( \begin{array}{ccc} x \\ y   \end{array} \right) =  \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ -1 \end{array} \right) \]があるので、広義固有ベクトル \( \vec{p_2} \) は\[
\vec{p_2} = \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ -1  \end{array} \right)
\]となる。(なるべく整数になるように広義固有ベクトルを決めましょう。)

 

よって、\[
\left\{ \begin{array}{l} (A - 2E) \vec{p_1} = \vec{0} \\ A \vec{p_1} = 2 \vec{p_1} \end{array} \right.  \ \ \ 
\left\{ \begin{array}{l} (A - 2E) \vec{p_2} = \vec{p_1} \\ A \vec{p_2} = \vec{p_1} +   2 \vec{p_2} \end{array} \right. 
\]が成立するので、\[ P = \left( \vec{p_1}, \vec{p_2} \right) = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ -3 & -1 \end{array} \right)\]とすると、\[ \begin{align*}
AP & = A \left( \vec{p_1}, \vec{p_2} \right) \\ & = \left( 2 \vec{p_1}, ¥vec{p_1} + 2 \vec{p_2} \right)  \\ & =   \left( \vec{p_1}, \vec{p_2} \right) \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 0 & 2 \end{array} \right) \\ & = P \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 0 & 2 \end{array} \right)
\end{align*} \]となるので、\[
P = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ -3 & -1 \end{array} \right) \ \ \ 
J = P^{-1} AP =  \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ 0 & 2 \end{array} \right)
\]とジョルダン標準形にできる。

 

[検算]\[
AP = PJ = \left( \begin{array}{ccc} 4 & 4 \\ -6 & -5 \end{array} \right)
\]

(4)

行列 \( A \) のべき乗 \( A^n \) を求めるためには、\[
A^n = P J^n P^{-1}
\]を求めればよい。

 

ここで行列 \( P^{-1} \) の逆行列を求める。\[
P^{-1} =  \left( \begin{array}{ccc} -1 & -1 \\ 3 & 2 \end{array} \right)
\]

また、ジョルダン標準形のべき乗 \( J^n \) は、\[
J^n = \left( \begin{array}{ccc} 2^n & 2^{n-1} n \\ 0 & 2 \end{array} \right)
\]と求められるので、\[\begin{align*}
A^n & = P J^n P^{-1}
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 2 & 1 \\ -3 & -1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 2^n & 2^{n-1} n \\ 0 & 2 \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} -1 & -1 \\ 3 & 2 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 2^{n+1} & 2^{n} (1+n) \\ -3 \cdot 2^n & -3 \cdot 2^{n-1} n + 2^n \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} -1 & -1 \\ 3 & 2 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} 2^n (3n+1) & 2n \cdot 2^n \\ -9n \cdot 2^{n-1} & 2^n - 6n \cdot 2^{n-1} \end{array} \right)
\\ & = 2^{n-1} \left( \begin{array}{ccc} 6n+2 & 4n \\ -9n & 2 - 6n \end{array} \right)
\end{align*} \]と計算できます。

 

(5) \[\begin{align*}
\vec{x}_n = & A \vec{x}_{n-1}
\\ = & A^2 \vec{x}_{n-2}
\\ = & \cdots
\\ = & A^n \vec{x}_0
\end{align*} \]となる。よって、\[\begin{align*}
\vec{x}_n & = 2^{n-1} \left( \begin{array}{ccc} 6n+2 & 4n \\ -9n & 2 - 6n \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 1 \\ -2 \end{array} \right)
\\ & = 2^{n-1} \left( \begin{array}{ccc} -2n+2 \\ 3n+4 \end{array} \right)
\\ & = \left( \begin{array}{ccc} a_n \\ b_n  \end{array} \right)
\end{align*} \]となるので、特殊解は\[
\left\{ \begin{array}{l} a_n = (1-n) \cdot 2^n \\ b_n = (3n-4) \cdot 2^n  \end{array}\right.
\]となる。

 

行列を用いて差分方程式の解く方法についてはこちらで詳しく説明しているので、興味がある人や(5)がうまく解けなかった人はこちらの記事をご覧ください。

www.momoyama-usagi.com

 

6.さいごに

今回はジョルダン標準形を用いた行列の \( n \) 乗の求め方についてまとめました。

 

2次正方行列, 3次正方行列の場合のジョルダン標準形の \( n \) 乗の形を覚えておくと期末試験や院試でジョルダン標準形を求めるような問題が出た際に役に立つと思います。

 

2次のジョルダン標準形 \( J \) のべき乗 \( J^n \) のまとめ

(これは覚えておきましょう)

f:id:momoyama1192:20190910143128g:plain

 

3次のジョルダン標準形 \( J \) のべき乗 \( J^n \) のまとめ

(上の2つは頭に入れておいてもいいかもしれません)

f:id:momoyama1192:20190910143132g:plain

 

線形代数の更新は一旦ストップしたいと思います。

全23回+α、ありがとうございました!

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